作詞講座
作詞講座第一章 作詞の基礎知識 1
これはいろいろな歌の詞をとりあげては、その歌詞のどこがどうすばらしいのかを分析していこう…という講座です。普段なにげなく聴いて、いいなーと思っている歌のどこにプロとしてのワザがあるのかを明らかにしていきます。
歌の詞はメロディがあって、はじめて作品として成り立つものです。それをメロディから切り離して、批評したり解説したりするのは難しい作業です。
無理と言いきる人や、無駄と断定する人もいるでしょう。その証拠として、歌詞の批評と証する本のほとんどが、メロディはないことにして、現代詩のように独立した作品として歌詞をあつかっています。書き手の「歌詞は音楽作品ではなく、文学作品なのだ。誰がなんと言おうと、絶対にそうなのだ」という歯ぎしりが行間から聞こえてきます。
当然の結果として、メロディを持っているがゆえの言葉のリズムの問題や、言葉の選び方といった視点は無視され、印象評にかたよることになります。歌詞の批評がジャンルとして確立していないのには、この辺りに理由があると思われます。
歌詞のおもしろさは、メロディという制約があるからです。制約は「きまりごと」であり、それを守るには「技術」が必要になります。職人としての「技術」と、芸術家としての「ひらめき」の融合が歌の詞のおもしろさなのです。
そこで、この章では「作詞の技術」「作詞の基礎知識」について書いていきます。
まず、この本で用いる音楽用語の説明をします。音楽用語というものは以外と意味の統一がなされていないのです。違う意味にとってしますと簡単な説明が煩雑になってしまうので、しばらくおつきあいください。
例えば、「曲」という言葉があります。
「○○の今度のシングルいい曲だね」
といった場合、「曲」はメロディ(旋律)と歌詞、さらに歌唱と伴奏、さらに編曲(アレンジ)まで含む完成した音楽作品を指します。ところが、あるバンドのメンバーが歌詞を作り、ほかのメンバーにこう言ったらどうなるでしょうか。
「オレ、詞書いたんだけど曲つけてよ」
この場合の「曲」は「メロディ=旋律」という意味になります。
このように「曲」という用語は「完成された音楽作品」と「メロディ=旋律」両方の意味があるのです。
「歌」という用語もあいまいに使われています。
「○ ○ の今度のシングルいい歌だね」
では、「歌」は「曲」とまったく同じ意味で使われるのに対し、
「曲はいいんだけど、歌がいまいちだね」
では、メロディと歌詞は良いが、歌っている歌手の歌唱に問題があるという意味になります。つまり「歌」は「歌手の歌唱(力)」という意味になるのです。
なぜこのようなことがおきるのか、それには理由があります。
「歌」の問題は、日本語の問題です。名詞としての「歌」と動詞としての「歌(う)」と行為の結果としての「歌」が、すべて一つの言葉でまかなっているので、混同がおきるのです。
「曲」の問題は、クラシックとポピュラーミュージックの問題です。
ポピュラーミュージック(この語句の定義は後で書きます)で使われる用語は、それ以前からある音楽用語を使っているので、明確な定義や、意味の統一がなされていないのです。
クラシックで作曲というとメロディだけでなく、オーケストラ全部の譜面を書くことになります。オーケストラが発するすべての音を作るのが、作曲家の仕事です。それに対して、ポピュラーミュージックで作曲というとメロディを作ることです。「作曲」あるいは「作曲家」という用語をクラシックから借用して使っているので、このようなことがおきています。
もっと厳密な言い方もあります。メロディだけを作る人を「メロディメーカー」といい「作曲家」と分ける言い方があります。このように表現すると、クラシックの作曲家(オーケストラ全部の音を作る人)=ポピュラーミュージックの作曲家(メロディだけを作る人)+編曲家(編曲をして伴奏を作る人)となり、論理的整合性が保たれるのですが、この本の趣旨は「音楽用語の論理的統一に関する考察と提言」ではないので、これ以上踏みこむのはやめにしましょう。
それでは、この本における統一見解を示しておきます。
【歌】
メロディと歌詞でできている音楽作品。
【メロディ】
旋律。メロディという用語は一般的なので、この本では旋律ではなくメロディと書きます。
【歌詞】
単に詞という言い方もありますが、「詩」と混同しやすいので、メロディにのって歌われる詞は「歌詞」あるいは「歌の詞」と書きます。
【曲】
完成した音楽作品を表すときに使います。つまり、作詞、作曲、編曲、歌唱、伴奏すべてがなされた録音作品、あるいは演奏を指します。
【歌唱】
歌手によって歌われた歌。わかりにくいです。日本語では作られた作品も「歌」それを表現する行為も「歌(う)」そして発せられた音も「歌」なのでわかりにくくなってしまいます。英語だとわかりやすいのです。作品はソング(song)行為はシング(sing)発せられた音はボーカル(vocal)となります。この方がわかりやすいので、「歌唱」はやめにしましょう。
【ボーカル】
歌唱。歌うという行為によって発せられた音としての歌。
【ポピュラーミュージック】
二十世紀以降現在に至るまで、商業的に作られた音楽の総称。
適当な訳語がないので、このまま使います。ポピュラーミュージックの歌を指す時に「ポピュラーソング」という表現も使います。ポピュラーミュージックを直訳すると「大衆音楽」でしょうか。ポピュラーソングの訳語としては、個人的には「流行歌」あるいは「はやり歌」が好きなのですが、「ロック」や「ジャズ」は「流行歌」ではない、などと強く主張する人と論争をする気はないので、やめておきましょう。「ポピュラーミュージック」はなかなか定義しにくいのですが、「ポピュラーミュージック」以外にどんな音楽があるか考えてみるとわかりやすいでしょう。
● 伝統的音楽および、民謡、民俗音楽。
● クラシックとクラシックから派生した現代音楽。
● 実験的音楽あるいは、芸術的で売る気のない音楽。
こんなところでしょうか。
乱暴な言い方をすればこれら以外の音楽はすべて「ポピュラーミュージック」ということになります。その結果、まったく売れない(大衆に知られることなく、流行することもない)「ポピュラーミュージック」が世界中にあふれるという矛盾が起きますが、事実ですので良しとしましょう。
以上、用語の定義も終わりましたので、本題に入ります。
作詞学講座第一章 作詞の基礎知識 2
by フリーダムミュージックスクール・東京高円寺作詞講座作詞教室